僕が夢見るAGAがなくなった世界
僕はもうかれこれ15年以上、AGAと付き合っている。二十代前半で始まった生え際の後退は、僕の自信を少しずつ削り取っていった。フィナステリドを飲み始め、ミノキシジルを塗り、一進一退を繰り返す日々。鏡を見るたびにため息をつき、毎月の薬代に頭を悩ませる。そんな僕が時々、寝る前に想像することがある。それは、AGAが完全に治るようになった、あるいはそもそも存在しなくなった未来の世界だ。その世界では、誰も髪のことで悩んだりしない。朝、枕についた抜け毛の数に一喜一憂することもない。海やプールで髪が濡れることを気にする必要もないし、強風が吹いても手で頭を押さえることもないだろう。美容室では、薄毛を隠すための髪型ではなく、純粋に自分がしたいスタイルをオーダーできる。同窓会で昔の友人に会うのが億劫になることも、恋愛に臆病になることもなくなるかもしれない。それは、コンプレックスという重い鎧を脱ぎ捨て、誰もが軽やかに生きていける世界だ。AGAの治療法が確立されるということは、それだけではない。これまで治療薬や再生医療の研究開発に注がれてきた莫大なリソースを、他の難病の治療研究に振り分けることができるようになるかもしれない。人類がまた一つ、大きな課題を克服した証となるのだ。もちろん、これは僕の個人的な願望であり、ただの空想かもしれない。でも、世界中の研究者たちが、僕のような人間のささやかな願いを叶えるために、今この瞬間も努力してくれている。そう思うと、今の治療を続けるモチベーションも湧いてくる。いつか本当にそんな時代が来ると信じて、僕は今日も薬を飲み、未来を夢見る。