夢じゃない!iPS細胞による毛髪再生最前線
髪の悩みを根本から解決するかもしれない、まさに夢のような技術として期待されているのが、iPS細胞を用いた毛髪再生研究です。iPS細胞とは、皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を導入することで作製される、体のあらゆる組織や臓器に分化する能力を持つ万能細胞のこと。この革新的な技術を応用し、髪の毛を作り出す根源である「毛包」を再生させようという試みが、世界中の研究機関で進められています。研究のプロセスは非常に高度です。まず、本人の細胞からiPS細胞を作製します。次に、そのiPS細胞を、毛包の形成に重要な役割を果たす二種類の上皮系細胞と間葉系細胞へと分化誘導させます。そして、これら二つの細胞群を適切に組み合わせ、三次元的に培養することで、毛包の元となる「毛包原基」を作り出すのです。この毛包原基をマウスの皮膚に移植した実験では、実際に毛が生えてくることが確認されており、人間への応用に向けて大きな一歩となっています。この技術が実用化されれば、AGA(男性型脱毛症)のように毛包がミニチュア化してしまったケースや、怪我ややけどで毛包ごと失われてしまった場合でも、新たな毛包を移植することで発毛させられる可能性があります。つまり、ドナーとなる自分自身の後頭部の毛髪量に左右されることなく、理論上はいくらでも髪を増やすことができるのです。もちろん、実用化までには、安全性、効率性、そしてコストといった数多くのハードルを越えなければなりません。しかし、科学者たちのたゆまぬ努力により、かつてはSFの世界だった毛髪の完全再生が、着実に現実のものへと近づいていることは間違いありません。