私の研究室の窓からは、街路樹の葉が季節ごとに色を変えるのが見える。葉が生い茂り、やがて枯れ落ち、そして春にはまた新しい芽を出す。生命のサイクルは、かくも精巧にできている。私の研究対象である「毛髪」もまた、成長期、退行期、休止期というサイクルを繰り返す小さな生命だ。しかし、AGAによってそのサイクルが乱れ、多くの人が自信を失っていく現実がある。私がこの道に進んだのは、そんな人々の悩みを科学の力で解決したいという純粋な思いからだった。当初は、既存の薬の作用機序を解明する地道な研究が中心だったが、ここ十年で状況は一変した。特に再生医療技術の進歩は、我々研究者に「完治」という言葉を夢見させてくれるまでになった。顕微鏡の下で、細胞の塊が徐々に毛包の形を成していく様子を初めて観察した時の興奮は、今でも忘れられない。まるで新しい命が誕生する瞬間に立ち会っているかのような感動があった。もちろん、道のりは平坦ではない。一つの実験が失敗すれば、数ヶ月の努力が水泡に帰すこともある。期待される成果が出せず、プレッシャーに押しつぶされそうになる夜も少なくない。それでも私が研究を続けられるのは、クリニックで患者さんたちの声を聞く機会があるからだ。「先生方の研究が希望です」その一言が、私に再び白衣を纏わせ、顕微鏡を覗かせる。AGAが完全に治る時代。それは、単に髪が生えるということだけではない。人々が髪の悩みから解放され、自分らしく、前向きに生きていける社会の実現だ。その未来を一日でも早く手繰り寄せるため、私の探求はこれからも続いていく。