今回は、肥満治療と内科を専門とする医師に、減量と毛髪の関係についてお話を伺いました。多くの患者様を診てきた経験から、体重と髪の健康には明らかな相関関係があると先生は断言します。まず、肥満が髪に与える最も大きな悪影響は、体内で引き起こされる「慢性炎症」と「インスリン抵抗性」です。脂肪細胞、特に内臓脂肪は、サイトカインと呼ばれる炎症を引き起こす物質を分泌します。この微弱な炎症が全身で常に続いている状態が慢性炎症であり、頭皮も例外ではありません。頭皮で炎症が起これば、毛根はダメージを受け、正常なヘアサイクルが乱れて抜け毛が増加します。また、肥満は血糖値を下げるインスリンの効きを悪くするインスリン抵抗性を引き起こしがちです。すると、体はインスリンを過剰に分泌しようとし、これが男性ホルモンを活性化させ、AGA(男性型脱毛症)を進行させる一因にもなり得ます。しかし、健康的な減量、つまり食事と運動による適切なアプローチは、これらの問題を根本から改善できると先生は語ります。バランスの取れた食事で体重を落とすことで、体内の慢性炎症は鎮静化し、インスリンの感受性も改善します。これは、AGAの進行を緩やかにしたり、頭皮環境を正常化させたりする上で非常に重要です。ただし、注意すべきは「痩せ方」です。極端な食事制限による急激な減量は、髪の主成分であるタンパク質や、成長に必要なビタミン、ミネラルの不足を招き、かえって抜け毛を増やす「休止期脱毛」を引き起こします。髪を取り戻すための減量は、あくまで栄養バランスを保ちながら、時間をかけて行うことが鉄則です。